クロスリンク特許事務所(銀座・東銀座・新橋)のヤマダです。

はじめに

中外製薬は、抗がん剤「ハーセプチン」の後続品を販売申請した日本化薬を特許権侵害で訴えました。しかし、訴訟を提起した中外製薬はこの特許の特許権者ではありません。何故、特許権者ではない中外製薬が特許権侵害を訴えることができたのでしょうか?

分子標的薬とは

最初に今回の訴訟で名前が出てきた「ハーセプチン」について説明しておきましょう。

「ハーセプチン」は乳がんや胃がんの治療に使われる、「分子標的薬」という新しいタイプの抗がん剤です。従来の抗がん剤は活発に増殖している細胞に作用し、その細胞の増殖を阻止するものです。このタイプの抗がん剤はがん細胞の増殖を阻止するものの、正常な細胞の増殖まで阻止してしまうことが多く、副作用を引き起こすという問題がありました。

これに対し、分子標的薬はがん細胞を増殖させるための情報を伝達する遺伝子やタンパク(分子標的)に対して選択的に作用し、がん細胞の増殖を阻止するものです。このタイプの抗がん剤は細胞そのものではなく、がん細胞と深く関係する物質(分子標的)を攻撃するため、正常な細胞の増殖が阻止され難く、副作用も少ないと考えられています。

バイオ医薬品とは

「ハーセプチン」は分子標的薬であるとともに、バイオ医薬品でもあります。

「バイオ医薬品」は化学合成ではなく、バイオテクノロジーによって作られる医薬品です。細胞や微生物を培養して作るので、抗体やホルモンのような複雑な構造の物質(タンパク等)も作ることができます。

「ハーセプチン」も「抗HER2ヒト化モノクローナル抗体」という抗体です。がん患者は「HER2」という糖タンパクが異常に増えることがあり、この「HER2」ががん細胞を増殖させるためのシグナルであると言われています。「ハーセプチン」はこの「HER2」を分子標的とし、「HER2」に結合して「HER2」を無効化させることによって、がん細胞の増殖を阻止します。

蛋白糖尿病の治療薬であるヒトインスリン、ウイルス性肝炎の治療薬であるインターフェロン、成長ホルモン等もバイオ医薬品です。

特許権者でなくても特許権侵害の裁判を訴えることができる?!

本題に戻ります。今回の訴訟に関する中外製薬のプレスリリース(*1)には、こんなことが書いてあります。

本特許権はジェネンテック社が保有しており、…

特許権者はジェネンテック社で、中外製薬は特許権者ではないのです。そして、続けてこうも書いてあります。

当社は本特許権の専用実施権者です。また、本件訴訟において当社およびジェネンテック社は共同原告です。

要するに、中外製薬は特許権者ではなく、専用実施権者として日本化薬を特許権侵害で訴えたということになります。

専用実施権とは

専用実施権とは特許権に基いて設定される権利(ライセンス)で、特許権と同様に独占権です。

特許権者が定めた範囲内で独占的に特許品の製造販売をすることができ、専用実施権を侵害されたら侵害訴訟で相手を訴えることもできます。また、専用実施権が設定された範囲では特許権者と言えども特許品の製造販売をすることはできません。極めて強力なライセンスなのです。

特許法で定めているライセンスには、専用実施権の他に通常実施権があります。

通常実施権は特許権者が定めた範囲内で、或いは法律で決められた範囲内で特許品の製造販売をすることができる権利(ライセンス)です。しかし、特許権や専用実施権のように独占権ではないので、第三者に通常実施権の範囲内の発明を実施されても裁判で訴えることはできません。

訴訟の対象となっている特許

訴訟の対象となっている特許はまだ明らかではありません。しかし、

● 特許権者がジェネンテック社
● 専用実施権が設定されている
● HER2
● 乳がん

等の条件・キーワードで検索したところ、以下の特許がヒットしました。この特許が訴訟の対象となっている可能性があります。この特許の特許請求の範囲には以下のような発明が記載されています。

特許第5818545号「抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ」(*2)

【請求項1】
(i)抗ErbB2抗体huMab4D5-8を含有し、8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより、HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器、及び(ii)前記容器に付随するパッケージ挿入物を具備するパッケージ。

※ ErbB2:HER2の別名

抗ErbB2抗体(抗HER2抗体、即ちハーセプチン)を含む医薬組成物を、乳がんを治療する用途で、しかも特定の投与方法で使うことが限定された形の用途特許となっています。

まとめ

特許権は特許権者が自ら使う他、専用実施権、通常実施権などのライセンスを設定して、他人に使わせることもできます。

特許権の譲渡や共同保有と比べると、実施権者(ライセンシー)との関係性が悪くなった場合に契約を打ち切る等してライセンスを消滅させることができるというメリットがあります。

但し、専用実施権は独占権であり、特許権にも匹敵する強力なライセンスです。相当の信頼関係がなければ設定しない方がよいでしょう。それでもライセンスを与えたいのであれば通常実施権を設定することをお勧めします。

参考サイト

(*1)ハーセプチン®注射用に関する特許権侵害訴訟の提起および仮処分命令の申立てについて(中外製薬HP,プレスリリース)

(*2)特許第5818545号「抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ」

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