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伊藤園、カゴメとのトマトジュース訴訟に敗北 ~明細書のサポート要件って何?~<コラム#108>

はじめに

伊藤園とカゴメの間で争われていたトマトジュースの特許を巡る争い。
知財高裁はカゴメの主張を認める判決を出しました。

今回の裁判で問題になったのは、発明の中身というより特許出願書類の書き方です。
伊藤園の書類はどの辺りに問題があったのか検証してみましょう。

 

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カゴメは伊藤園の特許の無効を主張

今回の裁判は審決取消訴訟という裁判です。

カゴメは伊藤園のトマトジュースに関する特許には不備があり、本来、特許されるべきものではないとして、伊藤園の特許を無効にするよう特許庁に審判を請求しました(特許無効審判)。
しかし、特許庁はカゴメの主張を退け、伊藤園の特許を維持する審決を出しました。
その後、カゴメがこの審決の取り消しを求めて知的財産高等裁判所(知財高裁)に提訴したのが今回の裁判です。

知財高裁はカゴメの主張を認め、この審決を取り消す判決を出しました。
今後、この事件は特許庁に差し戻され、再度、特許無効審判の審理が行われます。
この審理は今回の知財高裁の判決を踏まえた形で行われるため、伊藤園の特許は無効になるものと予想されます。

伊藤園の特許発明は「トマト含有飲料」

今回問題となった伊藤園の特許を見てみましょう(特許5189667[参考文献1])。

発明の名称は「トマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法」です。

特許発明の内容は、「特許請求の範囲」という書類に、以下のように記載されています。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖度が9.4~10.0であり、糖酸比が19.0~30.0であり、グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が、0.36~0.42重量%であることを特徴とする、トマト含有飲料。

※ 糖酸比=糖度/酸度。糖度を酸度で割った値のことです。

この発明は、トマトジュースの

①糖度
②糖酸比
③グルタミン酸とアスパラギン酸の合計含有量

という3つの値を一定の範囲内にコントロールする、というものです。

 

発明は技術的なアイデア(技術的効果を発生させるための仕組み・条件)ですから、何らかの技術的効果を生じなければいけません。

伊藤園の発明の効果は「明細書」という書類に、以下のように記載されています。

【発明の効果】
本発明によれば、主原料となるトマト以外の野菜汁や果汁を配合しなくても、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つトマトの酸味が抑制された、新規なトマト含有飲料及びその製造方法が実現される。

 

整理すると、伊藤園の特許発明は、①糖度、②糖酸比、③グルタミン酸とアスパラギン酸の合計含有量の3つの値を一定の範囲内にコントロールすれば、濃厚な味わいで、甘みがあり、トマトの酸味が抑制されたトマトジュースになりますよ、というものです。

逆に言えば、これら3つの値が一定の範囲内に入っているのに、味わいが濃厚でない、甘みがない、或いはトマトの酸味が抑制されていない、というトマトジュースが一つでもあったら、この発明は筋が通っていませんよね?

その場合、この発明は条件が足りないか、条件が間違っているということになるのです。

知財高裁は伊藤園の特許出願書類の記載不備を指摘

知財高裁は今回の判決文(平成28年(行ケ)第10147号 判決文[参考文献2])で、

伊藤園の特許出願書類は明細書のサポート要件を満たしていないとして、特許出願書類の不備を指摘しています。

明細書のサポート要件とは、特許請求の範囲の書き方について定めた要件です。特許法には、

特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。

と規定されています(特許法第36条第6項第1号)。

直訳すると、(特許請求の範囲に記載する)特許を受けようとする発明は(明細書の)発明の詳細な説明(の欄)に記載した発明でなければいけません、という規定です。

抽象的で分かり難いですね…。
意訳してざっくり説明すると、技術的にろくな説明がされていない発明や、データによる裏付けがない発明は特許しませんよ、だから特許を受けようとする発明については明細書に技術内容をきちんと説明してくださいね、という規定です。
例えば、たった一つの実験データしかないのに、だだっ広い特許権を求めることは認められていないわけです。

明細書のサポート要件に違反すると、特許出願が拒絶されます。
仮に審査官が見逃して特許になったとしても、特許の取り消し、無効の理由になるので要注意です。

 

今回の判決文で知財高裁は、

● 飲食品の風味には、甘味、酸味以外に、塩味、苦味、うま味、辛味、渋味、こく、香り等、様々な要素が関与する
● 粘性(粘度)などの物理的な感覚も風味に影響を及ぼす
● トマト含有飲料中には、様々な成分が含有されている

ことを指摘した上で、

●(発明の効果である)甘み、酸味、濃厚という風味が、(特許請求の範囲に記載した)糖度、糖酸比、グルタミン酸等含有量だけで決まるのであれば、そのことを説明する

●(発明の効果である) 甘み、酸味、濃厚という風味が、(特許請求の範囲に記載した)糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量だけでは決まらないのであれば、

① 他の条件を全て一定に揃えて風味の評価をする、或いは
② 他の条件を一定に揃えて風味の評価をする必要がないことを説明する

ことが必要であると指摘しています。

そして、そのような書き方をしていない伊藤園の特許出願書類は明細書のサポート要件を満たしておらず、出願書類の記載に不備があると判断したのです。

まとめ & アドバイス

今回の判決文を読むと、発明が素晴らしいだけではなく、出願書類もきちんと書いていないと特許を取れない、特許が取り消し、または無効になってしまう、ということがわかります。

 

今回の訴訟のような結果を招かないためには、

● その発明の技術的効果を適切に評価することができる評価方法を考える
● 求める特許の広さに応じた十分なデータを用意する
● 技術理解力に優れ、論理的な文章を作成することができる弁理士に出願書類の作成を依頼する

等が必要です。

参考文献

【参考文献1】特許5189667(伊藤園の特許の特許公報)

※ 特許公報の発行後、特許無効審判の審理において、特許請求の範囲の記載が訂正されています。訂正後の特許請求の範囲の記載は参考文献2に掲載されています。

 

【参考文献2】平成28年(行ケ)第10147号 審決取消請求事件 判決文(今回の裁判の判決文)

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