飲食業の方必見。「いきなり!ステーキ」が特許取得。一体、どんな発明なの?<コラム#39>

クロスリンク特許事務所(銀座・東銀座・新橋)のヤマダです。

はじめに

立ち食いステーキで有名な「いきなり!ステーキ」が特許を取得しました。普通の人なら「へぇ-。すごいじゃん!」で終わる話でしょう。でも、私も含め、特許に関わっている人達の見方はちょっと違います。私の周りはこの特許の話でザワザワしています(笑)

今日は「いきなり!ステーキ」が特許取得した発明の内容についてお話しします。

発明の名称は「ステーキの提供システム」

「いきなり!ステーキ」が特許を取得したのは2016年6月11日。運営主体のペッパーフードサービスは、2016年8月2日付でこんなプレスリリースを出しています。

 

私はお友達の弁理士さんから、このプレスリリースのことを教えてもらいました。そして、気になる特許発明の内容を、J-Platpat(特許庁のデータベース)で見て唖然。特許文書に書かれている文章の内容や図面に描かれている絵がかなり斬新で、明らかに普通の特許文書とは違うのです。

特許発明の内容は以下のようなものでした。

お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、
お客様からステーキの量を伺うステップと、
伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、
カットした肉を焼くステップと、
焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップと

を含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、

上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しと

を備えることを特徴とする、ステーキの提供システム。

(注)意味内容をわかりやすくするため、原文に改行、スペース、下線を加えました。

特許を出願した時は下線のない前半部について特許を請求していましたが、審査の過程で下線部を付け加えることで特許査定となりました。

パッと読んでみてどうですか? 皆さんの持っている特許のイメージと比べて、この発明についてどんな印象を受けるでしょうか?

日頃、特許文書に触れている私から見ると、少々、奇異な感じがします。特許文書ってもっと無機的に淡々と書くものなので、「お客様」とか「伺う」なんて言葉は普通は使いません。

「ステーキの提供方法」は発明に該当しない

さて、特許庁の審査官は、最初の審査で、出願時の発明(下線のない前半部)について、「『ステーキの提供方法』は、…ステーキを提供する手順という人為的取り決めを示すものであり、…発明に該当しない。」として、特許出願を拒絶する旨の通知をしました。

ザックリ言えば、「『ステーキの提供方法』は人が決めたルール(サービスの段取り)にすぎないから発明(技術的なアイデア)として認められませんよ。」ということを言っているわけです(だから当然、特許にもならない)。

例えば、金融保険制度や課税方法、ゲームのルール等も、人が決めたルールなので「人為的取り決め」です。これらはどれだけ素晴らしいアイデアであっても特許を取ることはできません。

審査官は「ステーキの提供方法」もこれらと同じだと考えているのです。

「提供方法」がダメなら…

審査官から拒絶の通知を受け取ったペッパーフードサービスの代理人弁理士はこれに対応するために元の発明に下線部の記載を追加するとともに、「『ステーキの提供方法』を『ステーキの提供システム』に変更しました。『システム』だから人為的取り決め(ルール)じゃないよね。だから特許にしてください。」というニュアンスの主張を行いました。

その結果、審査官は代理人弁理士のこの主張を受け入れる形で、「ステーキの提供システム」を特許としたのです。

以下のページで特許文書全文を見ることができます。

Google Patents:特許5946491

 

読んでみると面白いですよ。非常に独創的です。特許文書というより接客マニュアルですね…。

「方法」と「システム」は何が違うのか

特許庁では「システム」を「方法」ではなく「物」として扱っています。

「物」の発明の場合、「物」を形作っている各々の要素(部品と考えればよいです)が連動して一つの技術的な効果を発生させるという点に特徴があります。「ステーキの提供システム」の場合は、「テーブル番号が記載された札」、「カットした肉を計量する計量機」、「カットした肉を他のお客様のものと区別する印し」がシステムの要素です。

さて、この「札」、「計量機」、「印し」は連動して技術的な効果を発生するでしょうか?

私にはそうは思えません。「札」と「計量機」と「印し」がポンと置いてあっても何も起きませんからね。この3つの要素を結びつけるものがあるとすると、それは「人」です。

「人(客)」が肉をカットする場所に行って「札」を渡す。
「札」を受け取った「人(調理人)」が肉をカットし、「計量機」で重さを量る。
「人(調理人)」がカットした肉に「印し」を付ける。

人がいなければ動かないこの一連の流れ。これを「システム」と呼ぶのは、かなり強引な解釈だと思いませんか? 結局、「ステーキの提供システム」と言葉を変えたところで、実質的には「ステーキの提供方法」と何ら変わりはありません。

この「ステーキの提供システム」は「人為的な取り決め」の域を超えるものではない。だから、発明として扱われるべきではないし、特許にもするべきではなかった。というのが私の考えです。

飲食業の方はこの特許にどう対応すべきか

そうは言っても、現実に特許は存在しています。飲食業の方はこの特許にどう対応すればよいでしょうか?

まず、この提供方法を行う必要がないのであればやらない。これが一番無難です。君子危うきに近づかず、ですね。

一方、この提供方法でないと自分の商売が成り立たないという場合には簡単にやめるわけにはいきません。他の対応方法をとる必要があります。対応方針は大きく分けて3通りです。

(1)相手が特許権を持っていることを尊重する。

例えば、相手から特許の方法をライセンスしてもらう等の方法が考えられます。ただ、ライセンスしてくれるかどうか、ライセンスしてもらえるとしてライセンス料がいくらになるかというのは相手次第のところもあるので、自分の思うように交渉が進まない可能性もあります。

(2)相手の特許を潰しに行く。

相手の特許が本来特許になるべきものではないと判断した場合には、相手の特許を無効にして邪魔な特許権をなくしてから、その方法を実施するという考え方もあります。この場合、特許庁に特許無効審判(特許庁で行う裁判のような手続き)を請求して相手の特許を無効にします。但し、寝ている子(特許権者)を起こすことになるかもしれません。また、無効審判の請求は弁理士に依頼する必要があり、それなりの費用がかかります。

(3)相手の特許権を無視する。

相手の特許が本来特許になるべきものではないと判断した場合は、特許の存在を無視してその方法を継続して実施するという考え方もあります。相手から警告状が来たり、裁判で訴えられる可能性を頭に置きながらも実施を継続し、相手が攻撃を仕掛けてきた段階で対応するということです。実際に問題が起こるまで動かないのでそれまで無効審判請求等の費用は必要ありませんが、下手をすると問題がこじれる可能性があります。

おわりに

「これが特許になるの?」、「これを特許にしたら似たようなアイデアがたくさん出願されて特許庁は大変じゃない?」というのが私の正直な感想です。ただ、他の弁理士さんのブログなどを見ると、この特許に関して肯定的な意見も結構あるんですよね。今後の動向を見守ることにしましょう。

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