中小企業の知財戦略の目的は企業価値の向上です。大企業のように模倣防止や市場独占が目的ではありません。
会社や商品の強みをアピールし、ブランド力を上げていく。知財を「戦うための武器」と考えず、「企業価値向上のツール」とすることが大事です。
知財(知的財産)と言えば、真っ先に思い浮かぶのが特許・特許権です。
特許権は発明を独り占めすることができる権利です。特許権を取ることで、その発明品を製造販売をすることができるのは自分の会社だけとなります。
他の会社がその発明品を製造販売すれば、その製造販売を差し止めることができたり、損害賠償金を請求することができたりする強力な権利です。
それ故、他の会社は特許権による報復措置を恐れ、安易に模倣をしなくなり、結果として市場の独占につながります。
と、言われています。
でも、本当にそうなんでしょうか?
上の理屈は資金力が豊富な大企業には当てはまるかもしれません。しかし、中小企業は大企業ほど資金が潤沢ではありませんよね。言ってみれば、弱者です。弱者が強者と同じ考え方で戦ったらどうなると思いますか?
私は、
- 中小企業の知財戦略は大企業の知財戦略とは根本から異なる
- 中小企業が製品の模倣防止による市場独占を目指すのは合理的でない
- 中小企業の知財戦略では製品の模倣防止ではなく、会社や製品のブランド力向上を目指すべき
と考えています。
知財戦略・知的財産権に対する誤解
このアイデアを誰にも真似されたくない。だから特許を取りたい!
うちの事務所に相談に来る方は異口同音にこれを口にします。
では、質問です。
特許を取れば真似をされないんですか?
真似されないなら、なぜシャネルのバッタモン(模倣品)があんなに出回っているんですか?
シャネルだって、商標権や意匠権くらい、取っているんじゃないんですか?
特許を取れば真似されない。知的財産権があれば真似されることはない。
この思い込みを一旦捨てましょう。
特許権、その他の知的財産権は相手の模倣や侵害行為に対する「抑止力」にはなリます。でも、模倣をさせない、やめさせる「防御力」としては不十分なのです。
物騒な例えになりますが、特許権・知的財産権は核兵器のようなものです。核兵器も「抑止力」と言われますよね。
あの国は核兵器を持っている。攻撃すれば核を撃たれるかもしれない。だから、あの国を攻撃するのはやめておこう。
そう思う国もあるでしょう。でも、実際に相手が攻撃を仕掛けてきたら?
核兵器で相手の攻撃を追い払うわけにはいきません。できるのは報復攻撃だけ。
相手の攻撃を防御するには別のシステムが必要になります。例えば、ミサイル迎撃システム(例:パトリオットなど)みたいな。こいつは高度な技術が必要でしてね。装備するには莫大な費用がかかります…。
核ミサイルは北●鮮のような貧しい国でも持てます。そかし、ミサイル迎撃システムを配備できるのは豊かな先進国だけ。
これと同じような構造が知財の世界でもあります。知的財産権は抑止力となる核ミサイル。ミサイル迎撃システムに対応するのが裁判・訴訟です。模倣行為を差し止めるにも、損害賠償金を請求するにも、知的財産権を持っているだけでは不十分で、知的財産権に基づいて裁判を起こさないといけません。
そして、訴訟費用は高額です。知的財産権の取得費用と比べると、1桁2桁、桁が変わってきます。
「特許を取りたいけど、お金がないんです。補助金を探しています」という中小企業さんが、果たして裁判で相手を訴える費用を捻出できるんですか?なかなか厳しいだろうと予想します(笑)
特許を取れば真似されない。知的財産権があれば真似されることはない。この考えがあまり現実的ではないことはわかってもらえたと思います。
なんだ、それなら中小企業が特許や知的財産に取り組む意味なんてないじゃないか!
いえいえ。決してそんな事はありません。弱者には弱者の戦略があります。知財という道具の使い方を考え直せばいいんです。
中小企業が知的財産に期待している効果と実際に得られる効果にはズレがある
下の表は特許庁が中小企業を対象に行ったアンケート調査の結果です。
中小企業が知的財産活動を行う際に期待したことを「目的」、実際に効果を得られたと感じられたものを「効果」としてパーセンテージを示しています。
「目的」より「効果」の数値が高ければ期待以上の効果を得られたことを示し、逆に低ければ期待外れだったことを示しています。
目的(%) | 効果(%) | 効果-目的(%) | |
---|---|---|---|
模倣品や類似品の排除 | 49.6 | 36.2 | ▼13.4 |
信用力の獲得 | 34.3 | 28.9 | ▽ 5.4 |
市場の独占 | 28.9 | 11.6 | ▼17.3 |
新技術などのブランド力向上 | 26.5 | 23.4 | ▽ 3.1 |
対外的なアピール効果 | 24.1 | 25.6 | 1.5 |
新規顧客の開拓 | 20.4 | 18.7 | ▽ 1.7 |
※ 中小企業の知的財産活動に関する基本調査報告書(22ページ~)|特許庁のデータを引用
この表を見ると、当初、最も期待していた「模倣品や類似品の排除」については「目的」に対して「効果」の数値が13.4ポイントも下がっており(49.6→36.2)、「市場の独占」に至っては17.3ポイントも数値を落としています(28.9→11.6)。
当初、これらの効果を期待して知的財産に取り組んだけれども、期待外れだったと感じている中小企業が多いということです。
これに対し、「対外的なアピール効果」については数値を1.5ポイント伸ばしており(24.1→25.6)、「信用力の獲得」、「新技術などのブランド力向上」、「新規顧客の開拓」についても若干数値を下げているものの、「目的」と「効果」の数値がほぼ同等です。
これらの項目に関しては当初期待した通りの効果を得られていると感じている中小企業が多いといえます。
当初、知的財産に対して期待した効果と、実際に得られたと実感された効果にはズレがあったということです。
中小企業が取るべき知財戦略
中小企業の知財戦略としては企業価値の向上を目的とした知的財産権の取得をおすすめします。簡単に言えば、知的財産権を取得することにより、企業の信用力を上げ、企業や製品のブランディングをしていくことを目指すのが良策だと考えています。
確かに、特許権などの知的財産権・独占権は模倣品や類似品を排除し、市場を独占するためのツールとして有効です。自社製品の周りに特許で参入障壁を築き、他社の市場参入を阻止することができれば、市場を独占することもできるでしょう。
しかし、特許で参入障壁を築く方法としてはコアとなる特許を多数の周辺特許・防衛特許で取り囲む方法が採られます(本丸の周りにお堀を張り巡らせるイメージ)。このような方法は多数の特許が必要となるため、どちらかというと資金力がある大企業向きのやり方です。
資金力に乏しい中小企業の場合、数は少なくても、自社の固有技術・特徴的な技術について特許権を取得し、それを対外的にアピールしていくことの方が大事です。特許権を取得することで企業の「信用力」や「ブランド力」を向上させ、対外的にアピールし、これを「顧客開拓」に活かしていくという方法が有効です。
「中小企業の知財戦略」のまとめ
- 特許権の取得のみでは模倣防止・市場独占をするには不十分
- 中小企業は模倣防止や市場独占ではなく、企業価値を向上させるために知的財産権を取得すると良い
- 中小企業の知的財産権取得は会社の信用力やブランド力が向上し、対外的にアピールすることができ、新規顧客の獲得につながる
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