知財エンタメドラマ「それってパクリじゃないですか?」現役弁理士がネタバレ解説(第2話「パクリとパロディー」)のネタバレ解説です。
今回解説したい「知的財産用語」は「商標」、「商標の類否判断」、「不正使用取消」。「ビジネスに活かしたいポイント」は「OEMの是非」と「ビジネスに感情を持ち込まない」です。
この記事は現役弁理士・ローテク弁理士®がドラマの中に出てきた「知的財産用語」、ドラマから学ぶ「ビジネスに活かしたいポイント」について解説するものです。
ドラマ自体の解説ではありませんが、ネタバレ要素を含みます。また、ドラマ版からの解説ですので、原作とは異なる部分があるかもしれません。あくまで個人の見解ですので、あしからずご了承ください。
前回までの解説記事はこのブログのカテゴリーページにまとめてあります。まだ読んでいない方はこちらもお読みください。
弁理士ドラマ「それってパクリじゃないですか?」– category –
「それってパクリじゃないですか?」第2話あらすじ
亜季(演:芳根京子)は弁理士・北脇(演:重岡大毅)とともに、月夜野ドリンクに新設された「知的財産部」に異動となる。
知財部発足後、初めて起きた問題が「パロディー商品問題」。月夜野ドリンクの看板商品「緑のお茶屋さん」のそっくり商品「緑のおチアイさん」というチョコレートが販売されていることが発覚したのだ。製造販売元は零細企業の「落合製菓」。
警告をしようと落合製菓に乗り込む亜季。だが、落合製菓の社長・落合(演:でんでん)の優しい人柄に触れて、落合製菓を商標権侵害で訴えることを躊躇してしまう。一方、「緑のお茶屋さん」は高梨部長(演:常盤貴子)が苦労して開発したもので、月夜野の開発陣の思いが込められていることを知った亜季は…。
「それってパクリじゃないですか?」第2話に出てきた知的財産用語の解説
第2話に出てきた知的財産用語をいくつか解説します。
今回、解説する用語は、
- 商標
- 商標の類否判断
- 不正使用取消
です。
商標
「商標」とは、消費者が商品やサービスを買う際の目印となる名前やマークのこと。
単なる名前やマークを商標と呼ぶわけではない。「商」売のための「標(しるし≒シンボル)」として使っているものを「商標」と言う。例えば、商品名やサービス名、会社名、会社のロゴマークなどが挙げられる。他にも、商品のパッケージデザインや会社のキャッチフレーズ的なものが商標として登録されている例もある。
第2話で登場した商標は、月夜野ドリンクの茶飲料に関する商標「緑のお茶屋さん」と、落合製菓のチョコレートに関する商標「緑のおチアイさん」だ。ドラマには両社の商標登録の具体的な内容までは出てこなかった。でも、話の流れから推察すると両方とも文字の商標だろう。それもデザイン化された文字ではなく、何の修飾もないプレーンな文字書体の商標(標準文字商標)と予想している。
余談だが、商標としては文字やマークなどの平面(二次元)で表現されるものが多いけれども立体的な商標もある。例えば、不二家のペコちゃん人形、ケンタッキーのカーネルサンダースおじさんのような店頭人形も商標として登録されている(商標登録4157614、商標登録4153602)。
最近では、色商標(色彩のみの商標)や音商標などの新しいタイプの商標も登録の対象になっている。
色商標や音商標について詳しく知りたい人は、以下の記事を読んでみて欲しい。
「色だけの商標」が遂に登録を認められた! ~新しいタイプの商標(その1)~
「音商標」の登録第1号は「ヒサミツ♪」 ~新しいタイプの商標(その2)~
商標の類否判断
「商標の類否判断」とは、2つの商標が似ているかどうかを判断すること。
商標が似ていると、消費者(商品やサービスを購入しようとしている人)が間違った商品やサービスを購入してしまうおそれがある(例えば、偽ブランド品を正規品と間違えて買ってしまうなど)。これを防止するのが商標法・商標権の役割の一つだ。
「商標の類否判断」は自分の商標を登録できるか否かの審査や、自分の使っている商標が他人の商標権を侵害しているかどうかを判断する際に重要な考え方だ。他人が既に出願・登録している商標と似た商標は登録することができない場合が多いし、他人が既に登録している商標と似た商標を使っていれば、他人の商標権の侵害になるおそれがある。
「商標の類否判断」は、2つの商標の
- 外観(見た目)
- 称呼(呼び名、音)
- 観念(意味)
を元に判断される。2つの商標を比べたときに、外観、称呼、観念のいずれか一つが似ていれば「似ている」と判断されることが多い。
ここで覚えておきたいのが、「商標の類否判断」と同じように、「商品・役務(サービス)の類否判断」も大事だということ。
たとえ商標同士が似ていても、その商標を表示する商品やサービスが似ていなければ消費者が商品やサービスを取り違える可能性はかなり減る。だから、商標登録の審査や商標権侵害の裁判では2つの商標の「商品・サービス」が似ていることが前提だ。
このような前提があるので、商標登録を出願(申請)するときには、自分が使いたい商標(名前やマーク)だけではなく、その商標を表示したい商品やサービスを指定することになっている。
上の図を見て欲しい。
仮に他人の登録商標と自分の商標が似ていても、商品・サービスが似ていなければ商標登録をすることもできるし、商標権侵害の問題にもならない。
逆に、他人の商標登録で指定された商品やサービスと自分の商品・サービスが似ていても、他人の商標と自分の商標が似ていなければ商標登録をすることもできるし、商標権侵害の問題にならない。
これが基本であり原則だ。例外もあるが、ここでは省略する。まずは原則を押さえておけばよい。
第2話では月夜野ドリンクの「緑のお茶屋さん」(商品:お茶飲料)が先に商標登録されているのに、落合製菓の「緑のおチアイさん」(商品:チョコレート)も重複して商標登録されていた。
これは何故だろうか?考えられる理由は2つ。
- 特許庁は商標「緑のおチアイさん」と商標「緑のお茶屋さん」は似ていないと判断した
- 月夜野ドリンクは商標登録を申請する際に、商品「チョコレート」までは指定していなかった
ドラマでは両者の商標登録の具体的な内容は分からなかった。だから、ここから先は僕の私見・想像。
おそらく、月夜野ドリンクは「緑のお茶屋さん」の商標登録を申請するときに「チョコレート」まではカバーしていなかったのだろう。実際に製造販売している「お茶の飲料」だけをカバーした。特許庁では「お茶の飲料」と「チョコレート」は似ていない商品(非類似の商品)としている。だから、後出しである落合製菓の「緑のおチアイさん」が商標登録されてしまったということ。
商標登録の申請では、実際に自分たちが製造販売していない商品でも、将来的に製造販売する可能性がある商品については念のため指定しておくことが多い。でも、飲料メーカーの月夜野ドリンクはお菓子を販売するところまでは想定していなかったのだろう。
因みに、商標「緑のおチアイさん」と商標「緑のお茶屋さん」の類否判断はどうかというと、グレー。外観(見た目)、称呼(呼び名、音)、観念(意味)だけから見ると、かなり微妙なライン。字面だけを見ると、似ているとまでは言えないように思う。
でも、商標権侵害の裁判になると、少し状況が変わってくる。裁判では外観、称呼、観念だけではなくて、商標の使い方や商品の取引実情なども加味して、商標の類否が判断されることがあるから。
ここで問題になりそうなのが、「緑のおチアイさん」のパッケージ。「緑のお茶屋さん」の包装とクリソツだからね(笑)
- 「緑のおチアイさん」が「緑のお茶屋さん」と、称呼(音)的に少し似ていること
- 「緑のお茶屋さん」が誰もが知っているヒット商品であること
- 「緑のおチアイさん」のパッケージが、「緑のお茶屋さん」をイメージさせるデザインになっていること
「称呼(音)が似ている」という点だけだと、2つの商標が似ていると言うには微妙。それでも、この辺の要素まで加味すれば「合わせ技一本」で、落合製菓の商標権侵害が認められる可能性もある。
北脇弁理士(演:重岡大毅)が、
- 商標の類否判断は難しい
- 侵害にあたるかどうかの判断は難しい
と言ってたけど、ホントにそう。僕ら弁理士にとっても難しい仕事の一つだ。一般の人はすぐに「パクリだ!」って言う。でも、僕らは法律的な基準に照らして似ているかどうかを判断する。主観・感情だけで決められるものではないから簡単ではない。
商標で何か問題が起きたら、自分勝手な解釈をせず、弁理士に判断を委ねた方がいい。
不正使用取消
「不正使用取消」は紛らわしい使い方をした商標権者の商標登録を取り消すこと。
一旦、商標登録をし、商標権者となった場合でも、その商標権者が商標の紛らわしい使い方をしたり、ズルい使い方をしたりした場合にはその商標登録が取り消されることがある。商標は間違った使い方をすると、消費者を惑わせ、迷惑をかける。だから、正しい使い方をしていない商標権者は商標登録を取り消されるというペナルティーを受けるケースがある。
「不正使用取消」は、特許庁が勝手に商標登録を取り消すわけではない。誰かが「不正使用取消審判」という審判(特許庁の中でやる裁判のようなもの)を請求した場合に、特許庁が取り消しを認めるかどうかを審理する。「不正使用取消」は4種類あるけれども、今回ドラマで出てきたのは商標権者の不正使用を対象とするもの。商標法51条に規定されている。
「落合製菓」は「緑のおチアイさん」について商標権を持っている。それなのに何故、不正使用と言われる可能性があるのか?
要は、商標の使い方がまずいのだ。
「緑のおチアイさん」という文字を商標登録していたとしても、特許庁が認めているのはその文字を申請したとおりの書き方で使うことだけ。たとえ同じ名前でも特殊な書体で書いたようなものまで使用を認めているわけではない。
「落合製菓」の場合、「緑のおチアイさん」という字面は商標登録の内容どおりだけれども、パッケージは「月夜野ドリンク」の「緑のお茶屋さん」を真似た書体・ロゴを使っている。「緑のお茶屋さん」にめっちゃ寄せている(苦笑)
こいつが不正使用、ズルい使い方と判断される可能性はあるだろう(ただ、不正使用取消は商品が類似していることが条件。お茶の飲料とチョコレートだと、どうだろう?)。
仮に「月夜野ドリンク」が不正使用取消審判を請求し、その請求が認められると、「緑のおチアイさん」の商標登録は取り消され、「落合製菓」は商標権を失うことになる。「緑のおチアイさん」を使う法律的な後ろ盾がなくなるということだ。
「それってパクリじゃないですか?」第2話から学ぶビジネスに活かしたいポイント
第2話から、ビジネスに活かしたいポイントをいくつか拾ってみました。
「月夜野ドリンク」と同じ製造業、ものづくりに関わっている人にとって知的財産は切っても切れない関係にあります。ぜひ、自分のビジネスのヒントとして、このドラマを活かして欲しいです。
第1話から、ビジネスに活かしたいポイントをいくつか拾ってみました。
「月夜野ドリンク」と同じ製造業、ものづくりに関わっている人にとって知的財産は切っても切れない関係にあります。ぜひ、自分のビジネスのヒントとして、このドラマを活かして欲しいです。
今回、紹介するポイントは、
- 「OEM」の是非
- ビジネスに感情を持ち込まない
です。
「OEM」の是非
「OEM(Original Equipment Manufacturing)」は他社ブランドの商品を請け負い製造すること。「相手先ブランド生産」とも言われる。
ざっくり言えば、自社ブランドの商品を自分の会社のために製造するのではなくて、他社ブランドの商品をその会社のために作ってあげること、である。
ドラマの中では、パロディー商品問題の解決策として、「月夜野ドリンク」が自社ブランド「緑のお茶屋さん」を使ったチョコレートの製造を、「落合製菓」に委託するシーンが出てきた。要は、「落合製菓」は「月夜野ドリンク」のために先方の望むチョコレートを作ってあげる、ということだ。これは「落合製菓」が黒子になること、「月夜野ドリンク」の「中の人」になること、と言い換えてもいい。
落合製菓がチョコレートを製造する点は同じだが、「緑のおチアイさん」という自社のブランドで(すなわち、自社の商品として)チョコレートを販売するのとは色々な面で違いが出てくる。ドラマの中では、月夜野ドリンクも落合製菓も利益を得る、両社ウインウインでハッピーエンドという描き方をされていたが、ここはよく考えて欲しい。
落合製菓は、
- 一番の売れ筋商品「緑のおチアイさん」の製造中止
- 「緑のおチアイさん」の商標権の放棄
- 自社ブランドではない、「緑のお茶屋さん」名のチョコレートの製造
を迫られる。
自社の人気商品と知的財産(商標権)を取り上げられ、自分のブランドにならない(顧客からの信用を積み上げるのに直接貢献しない)月夜野ブランドの商品をシコシコ作らなければいけなくなったとも言える。乱暴な言い方かもしれないが、月夜野の下請けになったということ。ものづくり企業として、本当にこれで嬉しいのかは考えた方がいい。
とは言え、落合製菓には月夜野ドリンクの信用に便乗してパロディー商品を作ってしまったという負い目がある。だから、「OEM」を受け入れるのは仕方なかったかもしれない。商売の面でも、月夜野のブランド力や販売網を駆使して、「緑のお茶屋さん」のチョコが人気商品になって、委託料も上積みしてもらえる可能性もあるだろうから。
でも、一般論としては、「OEM」を受けるかどうかは慎重に検討した方がいいということ。いいことばかりではない。
ビジネスに感情を持ち込まない
第2話は「感情」が一つのキーワードになった。
- 「許せません!」と落合製菓を訴えることを指示した増田社長(演:赤井英和)
- 「たくさんの人に喜んでもらえたら」とパロディー商品を作ってしまった落合社長(演:でんでん)
- 情にほだされて、落合製菓を見逃そうとした亜季(演:芳根京子)
3人とも、あまりよい判断とは言えなかった。
実際、パクリまがいのことをされて、頭に血が上った社長が相手先に怒鳴り込むなんてのはよく聞く話。一旦、頭を冷やして専門家である弁理士の話を聞いてから対応を決めた方がいいよ、増田社長!
落合社長も本当は優しい人なんだろう。決して悪気はなかった。それでもビジネスを行うには知財の知識が必要。自分でできないにしても、専門家を交えて話をするくらいはした方がよかったね。
亜季には商標が単なる名前やマークではなく、月夜野の信頼の証であること、雑に扱えば月夜野の長年の信頼を失うおそれがあることを知ってほしい。悪気がないからと言って、落合製菓を簡単に許しちゃダメなんだ。
ドラマの中で、北脇弁理士が仮に落合製菓が「緑のおチアイさん」で品質不良を出した場合の話をしていたけれど、そうなった場合に月夜野が世間から批判されることは十分予想される。これも結構ある話。似た名前の会社が何かをやらかして、いわれのないクレーム電話が鳴りまくるとかね。お客さんから聞いたことがあります。
信用を積み上げるには長い時間がかかるけど、失うのは一瞬。商標はきちんと管理しなければいけないんだ。
「それってパクリじゃないですか?」第2話の感想
まぁ、北脇弁理士はやり手ですね(笑)
落合製菓に配慮したように見えるけど、
- 落合製菓に「緑のおチアイさん」の製造を中止させ、商標権も放棄させて、「パロディー商品問題」を解決
- OEM契約にするから商品の品質管理は月夜野側でやるんだろう。落合製菓が品質不良を出して月夜野にとばっちりが来る可能性はかなり減った
- 訴訟は中止。落合製菓をつぶしたという悪評で月夜野が炎上するリスクを回避
- 月夜野が喉から手が出るほど欲しかった飲料以外の商品(チョコレート)を手に入れた。しかも新たに生産ラインを作らなくてもよいから、大した金もかからない
月夜野の完全勝利と言って良いんじゃないの。相手方にこういう弁理士は出てきて欲しくないもんだね(苦笑)
まだまだ書きたいことはあったんですが、今日はこの辺で(笑)
知的財産に関するお問い合わせ、ものづくりに関するご相談は、「クロスリンク特許事務所」まで。
この記事への感想をいただきました。ありがとうございます!
ドラマを見終わった後に、ドラマ内で使用された用語の詳細をこういった記事であらためて読むと頭にインプットされやすいですね。