知財エンタメドラマ「それってパクリじゃないですか?」(第1話「盗まれた発明」)のネタバレ解説です。
今回解説したい「知的財産用語」は「弁理士」、「知的財産」、「先願主義」、「冒認出願」。「ビジネスに活かしたいポイント」は「アイデア盗用と情報漏洩」と「知的財産の多面性」です。
この記事は現役弁理士・ローテク弁理士®がドラマの中に出てきた「知的財産用語」、ドラマから学ぶ「ビジネスに活かしたいポイント」について解説するものです。
ドラマ自体の解説ではありませんが、ネタバレ要素を含みます。また、ドラマ版からの解説ですので、原作とは異なる部分があるかもしれません。あくまで個人の見解ですので、あしからずご了承ください。
前回までの解説記事はこのブログのカテゴリーページにまとめてあります。まだ読んでいない方はこちらもお読みください。
弁理士ドラマ「それってパクリじゃないですか?」– category –
「それってパクリじゃないですか?」第1話あらすじ
亜季がアイデアを出した「キラキラボトル」。月夜野ドリンクの社運をかけた「ムーンライトプロジェクト」のキーアイテムだ。ところが、この「キラキラボトル」のアイデアがライバル会社「ハッピースマイル」によって特許取得されていることが発覚する。
同窓会で「ハッピースマイル」の社員と接触していた亜季は情報漏洩の犯人ではないかと疑われる。そこで、この問題の調査のために親会社から弁理士の北脇が派遣されてきて…。
「それってパクリじゃないですか?」第1話に出てきた知的財産用語の解説
第1話に出てきた知的財産用語・キーワードをいくつか解説します。
今回、解説するキーワードは、
- 知的財産(知財)
- 弁理士
- 先願主義
- 冒認出願
です。
「知的財産(知財)」はアイデアや情報に関する財産
「知的財産」はアイデアや情報に関する財産である。
目に見えない財産であり、「無体財産」とも言われる。一方、現金・宝石・高級時計のような動産、土地・建物のような不動産などの目に見える財産は「有体財産」と言われる。
「知的財産」の例としては、技術に関するアイデア(発明・考案)、デザインに関するアイデア(意匠)、商売上の信用を表すシンボル<商品名やロゴマーク>(商標)、著作物などがある。
「知的財産(無体財産)」は目に見えず、物とは違って複数人が同時に使うことができるという特殊性がある。盗用されやすく、財産を護るのが難しい。このため、「知的財産権」という独占権を取って護る必要がある。
技術に関するアイデア(発明・考案)は特許権・実用新案権で、デザインに関するアイデア(意匠)は意匠権で、商売上の信用を表すシンボル<商品名やロゴマーク>(商標)は商標権で、著作物は著作権で護ることができる。
第一話で登場したのは「特許(特許権)」。亜季が考えた「キラキラボトル」のアイデア(ボトル表面をキラキラにコーティングする技術)に関するものだ。
「弁理士」は知的財産に関する専門家・国家資格者
「弁理士」は知的財産に関する専門家・国家資格者である。
「便利屋」ではない。弁理士試験に合格し、弁理士資格を取得した人だけが名乗ることができる。日本全国に約1万人しかいない。弁護士約4万人、税理士約8万人と比べると、かなり少ない。士業の中では、希少種、レアキャラ。
特許・技術を扱うため理系出身者が多く、弁護士と同様にクライアントの代理人として仕事を行うため、「理系の弁護士」と呼ばれることもある。
特許権・実用新案権・意匠権・商標権を取得するための特許庁への代理手続きは弁理士の独占業務・専権業務であり、他の人は行うことができない(ただし、権利を取得したい本人が手続きを行うことは可能)。
弁理士は大まかに2種類に分けられる。企業内弁理士と事務所弁理士だ。
企業内弁理士は企業の知的財産部などに所属し、企業の知財戦略の立案、知的財産権の取得・管理、他社との契約交渉などを幅広く行う。
これに対し、事務所弁理士は顧客の企業から依頼を受けて、知的財産権の取得を代理したり、それに対するアドバイス・コンサルティングを行うことが多い。いわゆる外部専門家だ。
第一話には3人の弁理士が登場した。
- 北脇雅美(演:重岡大毅)
- 田所ジョセフ(演:田辺誠一)
- 又坂市代(演:ともさかりえ)
北脇と田所は企業内弁理士。北脇は「月夜野ドリンク」の親会社「上毛高分子化学工業」所属の弁理士。田所は「月夜野ドリンク」のライバル会社「ハッピースマイルビバレッジ」所属の弁理士で、知財部長を務めている。
一方、又坂先生は事務所弁理士。自ら「又坂特許事務所」を立ち上げ、その所長を務めている。言ってみれば、僕と同じ立場。3人の中では一番親しみを感じる立場の弁理士だ。
「先願主義」は知的財産の世界の早い者勝ちの原則
「先願主義」は知的財産の世界の早い者勝ちの原則である。
発明の内容が同じであれば、最も早く特許庁に特許出願(特許申請)の書類を提出した人が優先的に特許権を与えられる仕組み。先に「出願」をした人(先に「願書」を出した人)が優先されるので、「先願主義」と言われる。
これと対立する考え方が「先発明主義」。先に「発明」をした人が優先的に特許権を与えられる仕組み。一見、こっちの方が良さそうだが、「一番最初に発明したこと」の証明はとてもむずかしい。特許の審査に時間がかかってしまい、現実的でない。日本を含むほとんどの国は「先願主義」を採用している。
第一話では先に「キラキラボトル」を発明した亜季を差し置いて、ライバル会社の「ハッピースマイル」が特許を出願し、いち早く特許権を取得している。
特許権は独占権。「ハッピースマイル」が特許権を押さえている限り、「月夜野ドリンク」が「キラキラボトル」を製造することは難しくなってしまう。
後手に回った「月夜野ドリンク」ができることは大まかに言えば4つ。
- 戦う(ハッピースマイルの特許権を特許無効審判でつぶす)
- 言い訳する(自分たちが先に開発し、既に製造の準備もしていた技術だと主張する。「先使用権」という権利がある)
- 話し合う(「ハッピースマイル」に特許権を譲ってもらう、ライセンスしてもらう)
- あきらめる(「ハッピースマイル」の軍門に下り、指を加えて眺める。設計変更をし、別のアイデアに乗り換える)
「できる」とは言ったけれども、「あきらめる」以外の3つの方法はなかなか難儀だよ。
「ハッピースマイル」は「月夜野ドリンク」のライバル会社。特に田所は「月夜野ドリンク」を敵視している。「はい。そうですか」と、簡単に引き下がってはくれないだろう。
「冒認出願」はいわゆるパクリ出願
「冒認出願」は大まかに説明すると、いわゆるパクリ出願のことである。
もう少し丁寧に説明するならば、発明者ではない人、その発明について権利を持っていない人が特許を出願してしまうことだ。
発明をすると、その発明者に「特許を受ける権利」が生まれる。発明者は自分で特許を出願してもよいし、この権利を誰かに譲り渡してもよい。会社は自分で発明をする訳ではないけれども、自分の会社の研究者や開発者から「特許を受ける権利」を譲り受けて特許を出願していることが多い。
特許を受ける権利を持っていない人のした特許出願は「冒認出願」となる。「冒認出願」は特許出願を審査で拒絶する理由になったり、特許になった後でもその特許を無効にする理由になったりする。
第一話では「ハッピースマイル」の特許出願は既に審査を通過し、特許になってしまっていた。そうすると、審査で拒絶理由を訴える機会はもうない。北脇が「方法は一つだけ」と言っていたのは、「冒認出願」を理由に、「ハッピースマイル」の特許の無効を訴えることだ。
ただ、特許を無効にすれば、「ハッピースマイル」にこの技術を独占されることはなくなるけれども、「月夜野ドリンク」が独占できるわけでもない。自由技術といって、誰でもこの技術を自由に使うことができるようになってしまう。折角の亜季のアイデアを真似されても文句を言えないってことだ。こいつは「月夜野ドリンク」にとっては大損失だね。
因みに、「月夜野ドリンク」が特許を出し直すことはできない。ドラマの冒頭で出てきた「特許公報」。あそこに「キラキラボトル」の技術内容は記載されていて、一般に公開されている。こうなってしまうと、「キラキラボトル」は新しい技術ではない、と判断されて特許は取れないのだ。
「それってパクリじゃないですか?」第1話から学ぶビジネスに活かしたいポイント
第1話から、ビジネスに活かしたいポイントをいくつか拾ってみました。
「月夜野ドリンク」と同じ製造業、ものづくりに関わっている人にとって知的財産は切っても切れない関係にあります。ぜひ、自分のビジネスのヒントとして、このドラマを活かして欲しいです。
今回、紹介するポイントは、
- 「アイデア盗用」ではなく、「情報漏洩」が問題
- 一つの製品にはたくさんの知的財産が隠れている
です。
「アイデア盗用」ではなく、「情報漏洩」が問題
結局、亜季の「キラキラボトル」のアイデアはどこから流出したのか?
犯人はなんと、「月夜野ドリンク」の増田社長(演:赤井英和)、その人でした!
社外の人も参加する講演会で、社外秘の極秘情報「キラキラボトル」のことを話してしまったんですね。ご丁寧に、ライバル会社「ハッピースマイル」の社員・堀口(演:橋本淳)に、「キラキラボトル」の試作品まで見せてしまうという大失態。しょうがねぇなぁ。まったく(苦笑)
でもね。こういうことは実際よくあるんです。
「アイデアの盗用」というと、産業スパイみたいな悪いやつが情報を盗み出したように聞こえるでしょう?
でも、そういうのはほんとに稀です。大体は身内、社内の人間が大事な情報を漏らしちゃう。文字通り、「情報漏洩」です。
こういう技術情報は特許を出願するまでは、会社の壁を乗り越えて持ち出してはいけません。
よくある例としては、
- 研究部門が学会で発表してしまう
- 開発部門が展示会に出品してしまう
- 営業部門が得意先に商品サンプルを渡してしまう
などなど。いかにもありそうでしょ?
最近は人材の流動も激しいから、研究部門のキーパーソンが新商品の極秘情報を手土産にライバル会社に転職、なんてことも考えられる。
試作品を外注したら、そこから情報が漏れてしまった、なんてこともあり得る。
人間は良いアイデアを聞いたら、いち早く誰かに話したくなるもの。だから、技術情報を管理するルール、社員への知財教育を徹底しておかないとダメなんです。
一つの製品にはたくさんの知的財産が隠れている
今回の「ハッピースマイル」の特許ではどこまでの技術内容がカバーされていたんでしょうね。番組を見るだけではわかりませんでした。
ただ、堀口は増田社長から「キラキラボトル」を見せてもらったけれども、さすがに持ち帰ってはいないですよね。コーティング剤の具体的な成分内容までは分からなかったはずです。
そうすると、キラキラしたボトルの外観からコーティングの技術を類推し(同業者だからどんな技術を使っているかはある程度予測できそう)、先回りして特許を出したのではないですかね?
でも、「キラキラボトル」の技術・知的財産はこれだけではありませんでした。
そう。「きゅるんきゅるん」です(笑)
「キラキラボトル」はキラキラした外観だけではなくて、独特の手触り、滑りにくい表面コーティングに特徴がありました。堀口も増田社長からボトルを手渡されていましたが、このときはまだ初期段階の試作品。「きゅるんきゅるん」はまだ完成していなかったはずです。危ない危ない。
亜季はソフトボール部での思い出からボトルの滑りにくさにこだわっていました。そして、「キラキラ」と「きゅるんきゅるん」のバランスがとれたコーティングにする点に苦労したことを語っていました。
これは、北脇が言うように、「れっきとしたアイデア。発明」です。
このように、一つの製品にはたくさんの知的財産が隠れています。発明者は自分がこだわった部分、苦労した部分に目が行きがち。製品を多面的に見て、そこに隠れているアイデア・知的財産を漏らさず、掘り出しておくことが大事なんです。
「それってパクリじゃないですか?」第1話の感想
増田社長のうっかり情報漏洩。
知財業界的な「あるある」で、見ながらニヤニヤしてしまいました。こういうのを「おもらし」なんて言って、揶揄するんですよ(笑)
弁理士的にも気づきが多い場面でした。
一方、気になったのは弁理士の北脇が亜季に、「自分が情報を漏らした」との偽証を迫るシーン。あんなことはしませんよ。これでは、亜季ちゃんに、
最低の仕事ですね…。
って言われるの、当たり前だわ(嘆)
最後に、又坂先生が言っていましたよね。
知財の仕事ってね。誰かの作り出した汗と涙の結晶を護ることなのよ。
って。自分も弁理士としてそんな仕事がしたいもんだなと、初心に帰らせてもらいました。知財業界の皆さん、頑張りましょう!
想定の範囲を超えて大作になっちゃいました。次回は気が向いたらってことで(笑)
知的財産に関するお問い合わせ、ものづくりに関するご相談は、「クロスリンク特許事務所」まで。