その技術、宝の持ち腐れかも?【弁理士解説】ダイソンとルンバに学ぶ、中小ものづくり企業の生き残り戦略

開発思想を変えれば違う掃除機ができあがる

「うちは技術力には自信がある。どこにも負けない良いものを作っている。なのに、なぜか価格競争に巻き込まれて負けてしまう…」

ものづくり中小企業の経営者の方から、そんな切実な悩みを伺うことがよくあります。素晴らしい技術が、必ずしもビジネスの成功に直結しない。これは、多くの企業が直面する大きな課題です。

もしかしたら、その原因は「技術開発の方向性」にあるのかもしれません。

今回は、皆さんもご存知の「ダイソン」と「ルンバ」を例に、中小企業が自社の技術を活かし、新たな市場を切り拓くためのヒントと、それを支える特許戦略についてお話しします。

目次

ダイソンは「性能追求型」、ルンバは「用途展開型」

お掃除家電と言えばこの2つ。ダイソンのサイクロン掃除機と、アイロボットのルンバ。どちらも人気のお掃除アイテムですが、その開発思想は全く異なります。

ダイソンのサイクロン掃除機は性能追求型の開発

ダイソンのサイクロン掃除機は既存の製品の性能を突き詰めていく「性能追求型」の開発と言えます。

掃除機の最も重要な性能である「吸引力」を極めることを追求しました。「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機。」というキャッチフレーズからも、「吸引力」に対する自信とプライドがにじみ出ています。

アイロボットの「ルンバ」は用途展開型の開発

一方、アイロボットの「ルンバ」は新しい用途を発見していく「用途展開型」の開発と言えるでしょう。

ルンバは「吸引力」ではダイソンに到底及びません。しかし、アイロボットの得意技術「ロボット技術」を「家事」「掃除」という用途に展開し、既存の掃除機とは異なる全く新しい価値を生み出しました。

単にロボット技術を既存の「掃除機」に組み込むのではなく、「掃除を自動化し、家事の時間をなくす」という全く新しい思想の下、「お掃除ロボット」という新しい市場を創り出したのです。

中小企業が陥りがちな「性能追求の罠」

技術者の多くは、高品質・高性能なものを追求することに喜びを感じます。

私も元技術者なので、その気持ちは痛いほど分かります。でも、その追求は本当に顧客が求めているものと一致していますか?ただの自己満足になっていませんか?

「性能追求型」の開発は既存製品の市場で競争することを意味します。そこでは、資金力や人的資源に勝る大企業が圧倒的に有利です。
血の滲むような努力で性能を数%向上させたとしても、顧客にとってはメリットを感じにくく、結局、既存製品の中での価格競争に巻き込まれてしまうというケースは少なくありません。

あなたの会社の素晴らしい技術も、「高性能化」を目指すあまり、一部の専門家やマニアにしか価値を認めてもらえない製品になっていませんか?それではせっかくの技術が「宝の持ち腐れ」になってしまいます。

中小企業こそ「用途展開」で新たな道を切り拓け

ここで、アイロボットの「ルンバ」の戦略を思い出してみましょう。

彼らは掃除機には必須の機能である吸引力競争からは降りました。
その代わりに、自分たちの固有技術であるロボット技術を活かし、自分が何もしなくても掃除が終わっている、「あの面倒な掃除から開放された生活」という新しい価値を提案しました。

これこそ、高い技術力を持つ日本の中小企業が目指すべき道だと考えています。他社が持っていない自社の固有技術・独自技術を「今の製品以外の別の製品にも使えないだろうか?」「他の用途はないだろうか?」と考えてみるのです。

  • iRobotはロボット技術を家電製品に転用
  • やすりのワタオカはやすりの目立ての技術を猫のグルーミンググッズに転用
  • バーミキュラは工業用鋳物の鋳造技術と精密加工の技術を調理器具に転用

このように、技術の「性能」を高めるのではなく、「用途」を広げることで競争相手のいない新しい市場(ブルーオーシャン)を創り出すことを期待できるのです。

それは、技術の使い道を増やし、新たな需要を生み出すことになるんです。

「用途展開」も特許取得の可能性がある

そして、この「用途展開」にも特許取得はについても特許取得の可能性があります。

例えば、前述したやすりのワタオカのグルーミンググッズ。

やすりの世界では当たり前の技術でも、ペット用品の分野でそんな技術を使っているところはありません。やすりとペット用品の技術分野はかけ離れていますから、新しい、簡単には思いつかない技術として特許を取得できる可能性があります。

また、特許の世界には「用途発明」という考え方があります。これは、「あるモノ(技術)の、これまで知られていなかった新しい使い道(用途)を見つけた」というアイデアを特許として保護するものです。

例えば、「○○という成分に、これまで知られていなかった育毛効果があることを見つけた」といった場合、「育毛剤としての○○」という形で特許を取得できる可能性があります。

自社の固有技術を深堀りしてください。使い倒してください。全ての可能性を引き出してください。その素材、その技術を様々な分野に展開するんです。
そうすることで、他者には真似できない独占的な市場を形成することができます。

まとめ:あなたの会社の「宝」を再発見しよう

「良いものを作れば売れる」という方程式が、もはや通用しない時代になりました。大切なのは、自社の技術という「宝」を、顧客が本当に求めている価値に変換することです。

ぜひ一度、立ち止まって考えてみてください。

「うちの会社の技術、他の何かに使えないだろうか?」

そうして自身に問いかけることが、あなたの会社を新たなステージへと導く、はじめの一歩になるかもしれません。

そして、特許は決して大企業だけのものではありません。経営資源が限られる中小企業こそ、自社のアイデアとビジネスを特許で守り、それを起点として事業を推進していくべきなのです。

技術開発や特許取得については、まずは弁理士にご相談ください。その新しいアイデアの活かし方についてアドバイスをいたします。技術をビジネスに繋げていく。それもまた私たち弁理士の仕事なんです。いつでもお気軽にご相談ください。

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