はじめに
前回は「出願しても登録されない商標」の典型的な例として「商品やサービスの説明にすぎない商標」を紹介しました。
「出願しても登録されない商標」はまだまだあります。
今日は「出願しても登録されない商標」の第2弾「ありふれた商標」についてお話しします。
ありふれた商標は出願しても登録されない
ありふれた商標も識別力がない商標の典型例です。
ありふれていて特徴がない商標には自分の商品・サービスと他人の商品・サービスを区別(識別)させる力がないからです。
ありふれた商標の具体例
「ありふれた商標」については、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」を登録しない旨が規定されています(商標法第3条第1項第4号)。
「氏」はいわゆる名字ですね。
特許庁のHPを見てみると、「ありふれた氏又は名称」は、
● 同種の氏や名称がたくさん存在するもの
● 電話帳において同種のものが多数存在するもの
と定義されています。そして、具体例としては、
●「山田」
●「スズキ」
●「WATANABE」
●「田中屋」
●「佐藤商店」
等が挙げられています。
商標審査基準「六、第3条第1項第4号(ありふれた氏又は名称)」|特許庁
また、上記のHPの中で、特許庁は、
● 著名な地理的名称 (「日本」「東京」「薩摩」「フランス」等)
● ありふれた氏 (「山田」「スズキ」等)
● 業種名 (「工業」「製薬」「製菓」「放送」「運輸」「生命保険」等)
と、
● 商号や屋号に慣用的に付される文字
「商店」「商会」「屋」「家」「社」「堂」「舎」「洋行」「協会」「研究所」「製作所」「会」「研究会」等
● 会社等の種類名を表す文字
「株式会社」「有限会社」「相互会社」「一般社団法人」「K.K.」「Co.」「Co., Ltd.」「Ltd.」等
を結合したものについては「ありふれた名称」として扱うと説明しています。
審判決要約集を見ると、ありふれた商標であることを理由に登録を認められなかった事例としては、
●「有賀ゴルフ」
●「品川 L.P.ガス」
●「福島製作所」
●「株式会社サトー」
●「西沢スキー」
等がありました。
その一方で、「ありふれた氏又は名称」ではないと判断された事例としては、
●「朝くら」
●「森田ゴルフ株式会社」
●「藤野屋画廊」
等がありました。
「朝くら」については、
●「朝倉」はありふれた氏だとしても、「朝くら」は「朝」の漢字と「くら」の平仮名を組み合わせている
という理由で、
「森田ゴルフ株式会社」「藤野屋画廊」については、
●「森田」や「藤野屋」はありふれた氏又は名称だとしても、「森田」や「藤野屋」だけを抜き出して判断するべきではない(「森田ゴルフ」や「藤野屋画廊」を全体として見るべき)
という理由で、いずれも「ありふれた氏又は名称」には該当しない判断されました。
古い審判決が多い中で、比較的新しい審判決において「森田ゴルフ株式会社」や「藤野屋画廊」が「ありふれた氏又は名称」に該当しないと判断されたのが面白いところです。
「有賀ゴルフ」はダメ(昭和38年)、「森田ゴルフ株式会社」はOK(平成7年)。
一見、矛盾しているように見えますが、30年以上も時代が違います。同じように見える商標でも、ケースによって、時代によって、判断の基準や手法は変わってくるのです。
まとめ
ありきたりの姓や名称を普通に組み合わせるだけでは、「ありふれた」ものであるとして商標登録を認められない可能性が高いといえます。
どうしても、ありきたりの姓や名称を使いたいのであれば、
● 当て字を使う
● ロゴマークにする(文字⇒図形)
等、何か一工夫を加えて、「ありふれた」に該当しないようにする必要があります。
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