はじめに
前々回、前回と、「出願しても登録されない商標」の典型例として、自分の商品・サービスと他人の商品・サービスを区別させる力(識別力)がない商標を紹介してきました(1,2)。
今日もその続きです。今日は「出願しても登録されない商標」の第3弾「シンプルすぎる商標」についてお話しします。
シンプルすぎる商標は出願しても登録されない
シンプルすぎる商標も識別力がない商標の典型例です。
商品等にシンプルすぎる商標(文字やマーク)が付けられていても、それが商品・サービスを区別(識別)するための印しであると認識してもらえないからです。
「シンプルすぎる商標」については、商標法に、
極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
を登録しない旨が規定されています(商標法第3条第1項第5号)。
ザックリ説明すると、商標として使う文字やマークの内容が極めて簡単で、しかもその文字やマークが一般的に使われているような場合には商標登録しませんよ、という意味です。
「標章(ひょうしょう)」というのは、文字やマークのことです。「標章」のうち、商品やサービスについて使うものが「商標(しょうひょう)」です。音が似ているからややこしいですね…(笑)
商標法では、単なる文字やマークか、商売に使う文字やマークか、で用語を使い分けているんです。
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当するものの具体例
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」の具体例としては、
● 数字
● ローマ字や仮名文字(文字数が少ないもの)
● ローマ字と数字の組み合わせ
● 簡単な図形や立体的形状
等があります。
特許庁のHPには「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当するものの具体例が示されています。
(理解し易くするため、特許庁で示した例に加えて、ヤマダの方でも例を追記しました。)
● 数字
● ローマ字
・ローマ字1字又は2字(例:「A」「AB」等)
・ローマ字2字を「-」(ハイフン)で連結したもの(例:「A-B」等)
・ローマ字の1字又は2字に「Co.」、「Ltd.」又は「K.K.」を付したもの (例:「A Co.」「AB Ltd.」等)● 仮名文字
・仮名文字1字(例:「あ」等)
・仮名文字で、ローマ字1字の音を表示したと認められるもの(例:「エー」等)
・仮名文字のうち、ローマ字の2字の音を表示したものと認められるもののうち、そのローマ字が商品又は役務の記号又は符号として一般的に使用されるもの
・仮名文字で、1桁または2桁の数字から生ずる音を表示したと認められるもの(例:「トウエルブ」、「じゅうに」等)
・仮名文字のうち、3桁の数字から通常生ずる音を表示したものと認められるもの(例:「ファイブハンドレッドアンドテン」等)● ローマ字と数字の組み合わせ
・ローマ字1~2字の次に数字(例:「A2」「AB2」等)
・数字の次にローマ字1~2字(例:「2A」「2AB」等)● 図形
・1本の直線、波線、ありふれた輪郭(例:○、△、□等)
・簡単な図形(例:横長楕円形、卍等)● 立体的形状
・球、立方体、直方体、円柱、三角柱等※ 下線付きの例はヤマダが追記したものです。特許庁で示している例ではありません。
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当しないものの具体例
逆に、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当しないものの具体例も示されています。
(理解し易くするため、特許庁で示した例に加えて、ヤマダの方でも例を追記しました。)
● ローマ字
・ローマ字の2字を「&」で連結したもの(例:「M&M」等)
・ローマ字の2字をモノグラムで表示したもの(例:ルイ・ヴィトンの「LV」マーク等)※ モノグラムは2つの文字を組み合わせたもの。他にはニューヨーク・ヤンキースの「NY」マーク等。
● 仮名文字
・仮名文字のうち、ローマ字の2字の音を表示したものと認められるもの
・仮名文字のうち、3桁の数字から生ずる音を表示したものと認識されるが、通常生ずる音とは認められないもの(例:「ファイブテン」等)● 特殊な態様で表されたもの
※ 下線付きの例はヤマダが追記したものです。特許庁で示している例ではありません。
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当するか否かがわかりにくいもの
上に書いた例をざっと読むだけでは「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当するかがわかりにくいものがあります。微妙なものについて整理しました。
● ローマ字2字
・原則、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当(登録されない)。
・2字をハイフンで連結したものも「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当(登録されない)。
・2字を「&」で連結したもの、2字をモノグラムで表示したものは「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当しない(登録される可能性がある)。
● ローマ字2字の音を仮名文字で表示したもの
・原則、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当しない(登録される可能性がある)。
・但し、そのローマ字が商品又は役務の記号又は符号として一般的に使用されるものの場合は「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当(登録されない)。
● 数字を仮名文字で表したもの
・1桁または2桁の数字から生ずる音を仮名文字で表示したものは「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当(例:「トウエルブ」、「じゅうに」等。登録されない)。
・仮名文字のうち、3桁の数字から通常生ずる音を表示したものも該当(例:「ファイブハンドレッドアンドテン」等。登録されない)
・3桁の数字から生ずる音を仮名文字で表示しているが、通常生ずる音とは認められないものは「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当しない(例:「ファイブテン」等。登録される可能性がある)。
※ 「510」から通常生ずる音は「ファイブハンドレッドアンドテン」であり、「ファイブテン」ではない。
もっと詳しく知りたい方は特許庁の資料をご覧ください(3,4,*5)。
まとめ
あまりにシンプルすぎる商標は識別力がないものとして商標登録を認められない可能性が高いといえます。
例えば、「&」で連結する、モノグラムにする、文字数を増やす等して、「極めて簡単」「ありふれた」という指摘を受けないような工夫をすることが必要です。
参考サイト
(*1)
https://yamadatatsuya.com/archives/2667
(*2)
https://yamadatatsuya.com/archives/2730
(*4)商標審査基準「六、第3条第1項第5号(極めて簡単で、かつ、ありふれた標章)」|特許庁
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