TwitterからXへの改名が引き起こした商標権トラブル。中小企業経営者が見落としがちな商標登録の注意点とは?

Xの改名騒動は他人事じゃない

TwitterのXへの改名騒動は他人事ではない!
イーロン・マスクも陥った商標権侵害トラブルから、中小企業経営者が学ぶべき教訓とは?
あなたの会社名やブランド名は本当に大丈夫?
弁理士が商標登録の重要性と、名前を使う上で伴う法的責任を分かりやすく解説します。

目次

イーロン・マスク、TwitterからXへの改名で訴えられる

2023年、イーロン・マスクによるTwitterの改名劇には驚いた人が多いでしょう。新名称は「X」。Xはアルファベットの中でも神秘的な文字で人気があります。アルファベット一文字の名称はシンプルでインパクトもあります。

しかし、この“X”への改名によって、イーロン・マスクは商標権侵害で訴えられてしまったのです。この裁判は、つい最近(2025年9月)、「和解」という形で決着しました。

Musk’s X Corp settles mass-tort ad agency’s trademark lawsuit over ‘X’ name

この事件から中小企業の経営者が学んでおきたい教訓、商標登録の注意点をお伝えします。

商標のキホン。商標登録をしない限り、「名前」はあなたのものじゃない

商標とは会社やブランドの名前・ロゴマークを自分だけが独占的に使えるようにするための権利です。「自分だけ」ですから、他人に勝手に使わせないようにする権利とも言えます。

逆に言えば、「商標登録」という手続きをしない限り、「名前はあなたのものではない」とも言えます。有名コピーライターに作らせた名前でも、ずっと長い間、大切に使ってきた名前でも、です。

よく、「名前をパクられた!」、「パクリは許せん!」と騒いでいる人がいますが、商標登録をしていなければ、そもそもあなたにそんなことを言う資格はないんです。

「X」はそもそも誰のものでもない?

この裁判でX Corp社(旧Twitter社)を訴えたのはフロリダの広告会社・X Social Media社です。

この会社は「X」の名で広告サービスを展開しています。Twitterが「X」に改名したことで、混同が生じ、実際に売上が下がったと主張していました。
ただ、この会社が登録していた商標は「X」ではなく、「X Social Media」です。厳密に言えば、「X Social Media」と「X」は別の商標です。

一方、X Corp社(旧Twitter社)はX Social Media社の主張に対し、「これは言いがかりだ」と反論していました。
しかし、実はX Corp社(旧Twitter社)も「X」について商標登録しているわけではないんです。「X」の商標登録を求めて出願していますが、この出願は未だ審査中です⋯。

そうすると、両社とも商標「X」について商標登録しているわけではなく、商標「X」はどちらの会社のものでもないと言えそうです。

訴訟は和解で終結。勝者はいない痛み分け

2025年9月、この裁判は両社の「和解」により終結しました。この和解により、X Social Media社は社名を「Mass Tort Ad Agency」に変更することになりました。

これだけ見ると、X Social Media社がX Corp社(旧Twitter社)の言い分を一方的に飲まされたようにも見えますが、事はそれほど単純ではありません。

和解内容は非公開です。でも、X Corp社(旧Twitter社)は多額の和解金を支払い、X Social Media社に社名変更をしてもらったのではないかと予想しています。

X Social Media社は社名とブランドを捨てて、多額の和解金を得た。一方、X Corp社(旧Twitter社)は「X」のブランドを継続して使用することが可能になったが、多額の和解金を失った。

両社痛み分けです。

しかも、X Corp社(旧Twitter社)は今後も「X」関係の商標を登録している企業から同様の裁判を起こされるリスクを孕んでいます。これで終わりではない可能性がある、ということです。

中小企業にとっての教訓①:事業上、名前を使うことには責任とリスクが伴う

事業で使う会社名や商品名、ブランド名については必ず事前に商標調査をしましょう。

思いつきの名前を商標調査もせずに使っている方が多いですが、怖くて見ていられません。他人の商標権の範囲に踏み込んでしまえば、X Corp社(旧Twitter社)のように訴訟に巻き込まれる可能性があります。

また、他人が登録している商標は使えませんし、いくらあなたが商標登録をしたいと言ってもできません。いくら思い入れがあっても、別ブランドへの変更を検討すべきです。

また、登録商標「X Social Media」がある時に、自分が「X」を使ったら商標権侵害になるのか?という判断(2つの商標が似ているかどうかの判断)は高度で専門的な知識を必要とします。商標の専門家である弁理士に相談することも考えてみてください。

中小企業にとっての教訓②:シンプルな商標は商標登録が難しい

皆さん、シンプルで短い商標を好まれますが、そういう商標は商標登録しにくいのだということを頭に入れておく必要があります。ネーミング(名前を作ること)の際には例えば造語にしてみる等、ひと工夫することを考えてみてください。

今回の「X」のように、シンプルで短い商標は人気がありますが、商標登録は間違いなく難しいです。
そもそもシンプルすぎて、商標として認められないケースもありますし、誰かが先に登録していることもあります。実際、アメリカには“X”を含む商標が何百件も登録されているらしいですよ。

ただ、自分が考えた名前を商標登録するだけでなく、名前を作る段階からネーミングの専門家にアドバイスを受けることも一考です。

まとめ:事業で「名前」を使うには“法的な責任”がついてくる

今回のケースのように、商標戦略に失敗すると、裁判で訴えられるリスクが生じたり、せっかく長い時間をかけて作ったブランドを失う結果になります。

事業上、使っていく会社名・ブランド名・商品やサービスの名前・活動時の肩書き…。これらを使うには法的な責任が伴うということです。
これらの名前を安心して使っていくには、商標の知識が不可欠です。もし、少しでも不安に思った方は身近な弁理士さんに相談してみてくださいね。

名前一つで、あなたのビジネスの未来も変わってきます。

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山田 龍也
この記事を書いた人
弁理士/ネーミングプロデューサー/テキスト職人。ローテク特許/ネーミングから始める商標登録。専門誌「美容の経営プラン」で「守りと攻めのネーミング」を5ヶ月連載。経済産業省・中小企業庁「ふるさとデザインアカデミー」講師。樺沢紫苑セミナーコンペで3位入賞。全ては言語化から始まる。趣味はスイーツの食べ歩き。
Xの改名騒動は他人事じゃない

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