商標登録出願に関する情報提供制度 ~自分の会社名、商品名、サービス名を先に出願されてしまったときの防御策~

中小企業専門・クロスリンク特許事務所(東京都中央区銀座)所長、弁理士の山田龍也(@sweetsbenrishi)です。

目次

はじめに

赤の他人があなたの会社名、商品名、サービス名を無断で使っていることが判りました。

さぁ、あなたならどうしますか?

今日は商標登録出願に関する情報提供制度を紹介します。

商標登録は先願主義。出願をしない限り、その商標を独占する権利は与えられない

「自分が先に使っていた商品名をパクられた!勝手に商標権を取られた!」

こんな風に怒っている人をよく見かけます。

気持ちはわかります。しかし、日本の商標法は先願主義という考え方を採っています。最も先にその商標を出願した人に独占権である商標権を与えるという考え方です。最も先にその商標を使い始めた人に商標権を与えるわけではないのです。

言い換えると、商標法は、

先に使っていたという事実だけで独占権は与えない
まだ出願していない状態の商標は誰か一人の占有物ではない

という考え方なのです。まだその商標を出願もしていないのに「パクられた」と怒ったところで、商標法という法律上、何か救済を受けられるわけではない、という点に注意する必要があります。

同業他社の使用、出願、登録に注意する

それでは、自分の会社名、商品名、サービス名(これを「ブランド名」と称することにします)を守るにはどうしたらよいと思いますか?

まずは、同業他社の動きに注意を払うということです。同業他社の動きに注意を払い、いち早く行動することで被害を最小限に食い止めることができるのです。

同業他社の動きは、大まかに言うと、以下の3つの段階に分けられます。

(1)使用段階

同業他社があなたのブランド名を勝手に使っている。しかし、その同業他社はまだあなたのブランド名を出願していない

(2)出願段階(審査中)

同業他社があなたのブランド名を勝手に使っていて、しかもその同業他社はあなたのブランド名を出願している。しかし、同業他社の出願はまだ審査中で、商標登録を受けたわけではない

(3)登録段階(商標権取得)

同業他社があなたのブランド名を勝手に使っていて、しかもその同業他社はあなたのブランド名を出願している。そして、同業他社の出願は既に審査を通過し、同業他社はあなたのブランド名について商標登録を受けている(商標権を持っている)

(1)⇒(2)⇒(3)と段階が進むごとに状況が悪くなっていきます。

(1)の使用段階では、相手に先んじてあなたがそのブランド名を出願することが最大の防御策になります。

先程説明したように、商標の世界は先願主義です。

(1)の使用段階では、相手が出願していないわけですから、あなたがブランド名を先に出願してしまえば、後から相手が同一または類似のブランド名を出願しても「後出し」になり、商標権を取ることはできません。

逆に、あなたのブランド名の商標登録が認められれば、独占権である商標権が与えられます。商標権を持っていれば、相手が同一または類似のブランド名を使用していたら、その使用を禁止することができます。

情報提供制度は相手の商標が出願段階(審査中)の場合に有効な防御策

(2)の出願段階では、まだ審査中で商標登録を受けていないものの、相手はあなたのブランド名を既に出願しています。

従って、(2)の出願段階で、あなたが同一または類似のブランド名を出願しても、相手より「後出し」になり、あなたが商標権を取ることはできません。(2)の出願段階では、出願は防御策にならないということです。

しかし、(3)の登録段階まで行ってしまうと、相手にブランド名を使わせないようにするためには、相手の商標登録に異議を申し立てたり、商標登録の無効審判を請求するなどの方法で、相手の商標権をつぶすしかなくなります。

これらの手続は簡単に言うと特許庁の中で行う裁判です。時間、手間、費用がかかり、相手との争いで精神的にも疲弊します。一旦発生してしまった権利を潰すというのはかなり大変な手続なのです。ですから、できる限り(3)の登録段階に行く前に対応策を採らなければいけません。

(2)の出願段階で有効な防御策が情報提供です。

情報提供制度は、相手の出願に拒絶すべき理由がある等の情報を特許庁の審査官に提供することができる制度です。審査官があなたの提供した情報を有用なものと認めてくれれば、その情報に基いて相手の出願を拒絶してくれる可能性があります。

簡単に言うと、(2)の出願段階で相手の弱みを審査官に耳打ちして審査で拒絶してもらい、相手が商標権を取ることを邪魔するわけです。情報提供がうまくいくと、相手が商標登録を受けること、即ち商標権を取得することを阻止することができます。

特許庁の審査官は的確な審査を行うために様々な情報を収集しています。それでも全ての情報を把握しているわけではありません。そこで、一般の人も審査協力という観点から、審査に有用な情報を提供することができるようになっているのです。

情報提供制度の概要と注意点

以下に、情報提供制度の概要と注意点をまとめてみます(*1)。

(1)情報提供をすることができる人

誰でも情報提供をすることができます。

また、匿名で情報提供をすることも可能です。相手に自分の存在を明かすことなく、相手の商標登録を邪魔することができるわけです(笑)

但し、情報提供がされたという事実については、特許庁から出願人に連絡されます。匿名で情報提供をすれば名前自体は相手にばれませんが、「自分の出願したブランド名を登録されては困ると思っている人間がいる」ということは察知されてしまいます。

なお、匿名の場合は、その後、特許庁から何の連絡も来ません。例えば、提供した情報を審査官が利用したかどうかについてフィードバックを受けることはできません。

また、実名で情報提供した場合もフィードバックを受けられるのは、提供した情報が利用されたかどうかだけです。審査の結果自体がフィードバックされるわけではありません。審査の結果については、特許情報プラットフォーム(J-Platpat)等を使って自分で調べる必要があります。

(2)情報提供をすることができる時期

まだ審査が完了しておらず、その出願に拒絶査定や登録査定が出る前であれば情報提供をすることができます。

逆に、既に出願の審査結果が確定してしまった後は情報提供をすることはできないということです。また、出願人が出願を取り下げてしまった後なども情報提供を行うことはできません。

このため、相手があなたのブランド名を出願していることがわかったら、いち早く情報提供をする必要があります。さもないと、審査結果が確定してしまって情報提供をすることができなくなるからです。

(3)提供することができる情報

出願された商標が、登録すべきでない理由(拒絶理由)があるという情報を提供することができます。拒絶理由は全ての拒絶理由ではなく、一部の拒絶理由に限定されています。例えば、

● 出願された商標に識別力がない(商標法第3条1項各号)
● 出願された商標が、他人の周知商標(有名な商標)と同一または類似であり、しかも同一または類似の商品・役務(サービス)について使用するものである(商標法第4条1項10号)
● 出願された商標が、既に登録されている商標と同一または類似であり、しかもその指定商品・指定役務(サービス)と同一または類似の商品・役務(サービス)について使用するものである(商標法第4条1項11号)

等の拒絶理由について情報を提供することができます。

但し、出願された商標が未だ出願していないあなたのブランド名と同一または類似だというだけでは、拒絶理由にならないのでご注意ください。

(4)情報提供の方法

刊行物等提出書という書類を提出して情報提供を行います(*2)。この際、情報提供の理由を証明する書類も合わせて提出します。

情報提供を行う際、特許庁に料金を支払う必要はありません。無料です。

但し、弁理士に書類の作成や提出を代行して貰う場合には別途、弁理士費用(事務所手数料)がかかる場合があります。

(5)その他

情報提供はあくまで審査協力です。相手の出願に対して不服を申し立てるものではありません。

ですので、提出された情報を審査に反映させるかどうかは審査官の裁量に委ねられています。たとえ、審査で採用されなくても、それに対して文句を言うことはできません。

しかし、審査官が調査することができる情報には限りがあります。特定の業界で周知(有名)であるという事実は審査官も調べきれないことがあるので、そのような情報を提供することは有効と考えられます。

まとめ

商標登録出願に関する情報提供制度、いかがでしたでしょうか?

皆さんにとって大事なのは情報提供制度の仕組みや手続の仕方を知ることではありません。

● 同業他社の使用、出願、登録に注意し、常に目を配ること
● 同業他社に使用、出願、登録の動きがあったら、いち早く専門家である弁理士に相談すること
● 使用、出願、登録の段階に合わせた適切な対応策をとること

です。早めに対応すれば傷は浅くて済みます。

専門家は段階に合わせた対応策を知っていますので、自分一人で抱え込まず、早めに専門家である弁理士の知恵を借りることをお勧めします!

参考サイト

(*1)商標登録出願に関する情報提供について|特許庁

(*2)刊行物等提出書・書式|特許庁

商標登録に興味が出てきた人へ

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商標登録のやり方。商標登録とは何かについて簡単に説明します

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