ネーミングを作成した舞台裏を紹介し、これからネーミングに取り組む方に参考にしてもらおう。そんな意図で「ネーミング作成の裏側、全部見せます!」という記事を執筆しました。前回から3回シリーズでお届けしています。第2回は管理栄養士・竹本 小百合さんが提案する減塩料理の名称「ちょい塩料理」についてです。
ネーミング作成ご依頼 竹本 小百合さんについて
竹本さんは管理栄養士で、現在は国立循環器病研究センターで上級研究員を務めておられます。
ここで取り組んでいるのが、循環器病予防のための減塩料理の普及啓発活動。減塩料理に関するレシピ本「国循の 厳選 おいしい!! かるしおレシピ: 今日から始める減塩メニュー100(生活実用シリーズ)」も出版されています。
塩を使う量を減らしても美味しさを感じてもらうために、
- 八方だしを使う
- 酸味やハーブ、ナッツ類を加える
- 食材を均一にカットして味を染み込みやすくさせる
などの工夫をされているそうです。
ただ、この普及啓発活動の障壁となりそうなのが、内容が伝わりにくいこと。少ない塩で美味しく食べられる料理。それなのに、なぜかその良さをわかってもらうのが難しい…。
今回は竹本さんのおいしい減塩料理の名称がネーミング作成の対象です。
ネーミングの現状分析
国立循環器センターでは、前記の減塩料理を「かるしお」と名付けています。「かるしお」は、「塩をかるく使って美味しさを引き出す」に由来した言葉です。
また、国立循環器センターでは、「かるしおプロジェクト」という名称で、美味しい減塩料理の普及活動を行っています。
例えば、
- 弁当の販売
- 減塩レシピの書籍化
- 料理教室の開催
- かるしお認定制度
などを行っています。
かるしお認定制度は、国立循環器センターの定めた基準に基づいて、申請のあった製品について審査を行い、前記基準を満たした製品のみに「かるしおマーク」の表示を認める制度です。このように、「かるしお」は、国の研究機関が認めた、信頼性の高い、美味しい減塩料理なのです。
しかし、ネーミング作成にあたり、竹本さんにアンケートを実施したところ、
普段から、かるしおとは?という事を説明するためにとても時間がかかって、困っていました
どんな塩ですか?と聞かれることもよくあります
とのこと。これはどういうことなのか?
要は、「かるしお」というネーミングを見ただけでは、それが「美味しい減塩料理」であることが伝わらないんですよ。この問題を解決していく必要がある、ということです。
ネーミング作成
良いネーミングは、その名前を見ただけで商品のウリとなる特徴をイメージできるものです。
一方、「かるしお」は、その名前を見た人に「美味しい減塩料理」をイメージさせることができていない。これが、前回もお伝えした、ネーミング(名前や言葉)から客観的に導き出される意味内容と、本人が描いているイメージとのギャップ(ズレ)です。
それでは、このギャップ(ズレ)を矯正していきます。ヤマダ再生工場、ネーミングを生まれ変わらせます!
なぜ、「かるしお」という名前を聞いても,「美味しい減塩料理」をイメージすることができないのか?
その原因の一つが、「名前の主体」がズレていることです。
「かるしお」の名前の主体は「塩」。だから、
「かるしお」という特殊な塩があるんじゃないか?
国立循環器センターが、今までにはなかった、すごい塩を開発したんじゃないか?
そんな誤解を生じてしまうわけです。
もう一つ原因を挙げるならば、「塩をかるく使って美味しさを引き出す」から「かるしお」までの距離が遠すぎること。
国循の人はそういう由来で名付けられたことを知っていても、名前をぱっと見た人はそこまでたどり着かないんですよ。
このため、今回のネーミングのポイントは、
- 名前の主体を「塩」ではなく、「料理」にする
- 誰でも知っている言葉をなぞる
- 言葉の面白さを出す
としました。
そのような考えの下、作ったネーミングが「ちょい塩料理」です。
安積さんに素敵なイラストも作って頂きました。
「かるしお」との伝わり方の違いを感じてください。
名前の主体が「料理」になっています。これで、ネーミングの対象が「料理」であることを理解してもらえるわけです。
あとは、塩をあまり使っていない料理であることが伝わればよい。ここに、「ちょい塩」というワードを持ってきました。「ちょい」は「ちょっと」。「ちょい塩」で、ちょっとだけ塩を使っていることをイメージしてもらえます。
料理の分野には、「ちょい足し」という言葉があります。意外な調味料・食材をちょこっと足すことで、いつもとは違う美味しさを引き出せるという意味で使われます。この、皆が知ってる言葉をなぞる。その言葉にかぶせる。こうすることで、言葉に対する親しみやすさを出せるし、イメージを間違いなく伝えることができるのです。
あとは、「ちょい」という言葉を入れることで、名前に面白さ、ゆるさ、ユニークさをもたせることができるのもポイントです。
最後に、もう一つ。「ちょい塩料理」とすることで、使い勝手の良い名前としています。「料理」という言葉には、料理そのものと、調理法という2つの意味があります。どっちにでもとれる。
だから、調理法を説明するときに、「ちょい塩料理」と言ってもよいし、この調理法で作った料理や食品を「ちょい塩料理」と言ってもよい。こういう使い勝手の良さは意外に大事なんです。
こんな考え方の下、竹本さんにプレゼントするネーミング「ちょい塩料理」ができあがりました。
依頼者・竹本さんのご感想
竹本さんからは次のようなコメントを頂きました。
「ちょい塩料理」。一言ですべてが説明できとてもスマートになりました!
本当に伝えたい事が、今回を機に明確になりました
「かるしお」って担当者は知っている前提で話しをしてしまいますが、第三者からみると全く伝わっていないことにも気づき貴重なご提案でした
可愛らしくてこの一言で、スッーと入っていきます
竹本さんはSNSのLinkedIn(リンクトイン)にも喜びの声を投稿してくれました。
竹本さん。これだけ喜んでもらえると、こちらも作った甲斐があります。
ぜひ、「ちょい塩料理」を使ってみてください。この名前をきっかけに美味しい減塩料理が普及し、循環器病に苦しむ人が少しでも減ってくれれば。実際に使ってみた反応もお知らせくださいね。
今日のまとめ
「ネーミング作成の裏側、全部見せます!」。第2回は「ちょい塩料理」でした。
ネーミングをうまくなるコツは他の人のネーミングに興味を持つことです。
今日のポイントは「皆が知ってる言葉をなぞる。その言葉にかぶせる」でした。「ちょい足し」をなぞった「ちょい塩」。こうすることで、名前の理解・浸透を早めることができるんです。
「ベルサイユの豚」という居酒屋があります。なんとなく、「ベルサイユのばら」をイメージしませんか?「ばら」と「豚」。音数は同じなのに、意味を対比すると真逆。こういうのが面白いんです。
もし、この記事を読んで、「本気でネーミングに取り組んでみよう!」と思った方は、ぜひヤマダまでご相談ください。専門的知識を持った第三者の客観的な視点を入れることで、自分本位のネーミングから脱することができますよ。
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