はじめに
昨日書いた第三者による商標「PPAP」出願問題の続きです。「早い者勝ち」という面だけ見るなら、「早く出願しないエイベックスが悪い」という、B社代表・U氏の言い分も一理あるよね、というところまで話をしました。
じゃぁ、U氏のやっていることに全く問題がないんですかというと、そうではありません。
今日は、B社の「PPAP」出願の行方を予想してみます。
B社の出願はこんな流れで処理される
B社は商標「PPAP」を出願しただけで、まだ商標権を取ったわけではありません。今後、この出願が特許庁でどのように取り扱われるのか、これが一つのポイントです。
商標を出願すると、まず「方式審査」が行われ、これをパスすれば「実体審査」が行われます。「方式審査」では、出願書類や出願の手続きに形式的な間違いがないかをチェックします。「実体審査」では、商標が登録のための条件を満たしているかどうかをチェックします。
この2つをパスすると、特許庁から「登録査定」という書類が届きます。期間内に登録料を納付すれば、その商標は登録され、商標権が発生するという流れです。
それでは、B社の出願の行方を大予想してみましょう!
B社の出願が方式審査をパスする可能性
現状のままだと、方式審査をパスすることができず、B社の出願は却下されます。B社は出願料を納付していないからです。どうも、U氏は出願料を納付しないで出願書類を出す、というのがデフォルトのようなのです…。理由はこれ。
[2016年公開商標公報 出願人ランキング]
1位 B社 19,949件
2位 U氏 5,701件
3位 サンリオ 829件
4位 資生堂 608件
5位 花王 469件
これは昨年、2016年のデータです。昨年、日本の特許庁に商標を出願した件数がほぼ反映されています。
日本で最も多く商標を出願しているのがB社、2番目がU氏。なんと日本でワンツーフィニッシュ! その数、合計25,650件!
商標の出願料は1件、少なくとも12,000円です。全部払えるわけないんです。でも特許庁は出願料を払わなくても出願を受け付けてくれます。「そんなの受け付けるなよ!」と思う人もいるかもしれません。でも、これは国際条約で決まっているので仕方ありません(STLT:商標法に関するシンガポール条約)。
出願料を払わなかった場合、特許庁から「お金をちゃんと支払ってください」という指令(補正指令)が届きます。それでもお金を支払わないと、最終的にはその出願が却下処分となります。
現状、この出願の却下処分は確定していません。今後、B社が出願料を納付すれば、方式審査をパスする可能性はあります。U氏がエイベックスと戦う姿勢を崩さないならば、全ての出願の出願料を納付することはできなくても、飯のタネになりそうな「PPAP」だけは出願料を納付して商標権を取りに行く、というのは十分考えられますからね。そうすると、この出願が却下処分にならず、方式審査をパスする可能性は少なからずある、と言えます。
B社の出願が実体審査をパスする可能性
B社の出願が方式審査をパスした場合、次は実体審査が行われます。
商標法には「拒絶理由」というのが規定されています。この条件を満たさない商標は登録しませんよ、という条件です。拒絶理由はたくさんあるんですが、気になるものをいくつか挙げてみます。
(1)B社は商標「PPAP」を使う意思がないから登録しない
B社が「PPAP」を出願した理由はU氏のみぞ知ります。でも、「PPAP」の商標権を取って、その商標権をエイベックスに高額で売りつけようとしている(転売)と考えるのが自然ではないでしょうか。
もしそうであるとすると、B社の出願は商標法の3条1項柱書(はしらがき)という規定に引っかかる可能性があります。3条1項柱書には、
「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、…商標登録を受けることができる。 」
と規定されています。この規定をザックリ説明するならば、
● 自分の事業で製造・販売する商品
● 自分の事業で提供するサービス
に使う商標だけが商標登録を受けることができ、
● 自分が今現在使っている商標
● 自分が将来的に使おうとしている商標
以外は商標登録を受けられない、という意味です。
商標法では、最初から他人に売ること(転売)を目的として商標権を取るのはダメよ、と規定されているわけです。いわゆるブローカー行為を禁止しているんですよ。
だから、実体審査で「B社は商標『PPAP』を使っていないし、将来的にも使う意思がない」と判断されれば、B社の出願は拒絶されます。B社は商標「PPAP」について登録を受けられないということです。
私はB社の出願がこの規定で拒絶される、というのが一番、腹落ちします。U氏のやっていることはブローカー行為そのものですから。
一つ気になるのは、この規定が厳格には適用されていないという点です。この規定をあまりに厳格に適用すると、「ちゃんと事業をやっています」、「ちゃんと商標を使っています」ということを証明する書面が必要になって、出願人も審査官も面倒になるからです。
ただ、審査官は「B社が商標を使う意思が明らかでない・疑わしい」と判断した場合には、裏付け書類の提出を求めることができます。審査官の判断次第ではありますが、B社の出願が3条1項柱書違反で拒絶される可能性はある、と予想します。
(2)B社の商標「PPAP」は公序良俗に反するから登録しない
B社はピコ太郎の世界的大ヒット曲「PPAP」に便乗している、とも考えられます。そうすると、B社の出願は商標法の4条1項7号という規定に引っかかる可能性があります。
4条1項7号には、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」が規定されています。公序良俗に反する商標は登録を受けられないのです。
日本人なら誰もが知っている有名な楽曲名「PPAP」について、全く無関係のB社が商標権を取って独占した場合、公共の利益に反すると考えられます。過去には「みなとみらい」の文字を含む商標がこの規定で拒絶されています。
ただ、この7号。めったやたらと使ってはいけない規定です。
他の規定ではどうしても拒絶することができない。でも、この出願は拒絶するべきだ、という時に出てくる規定です。水戸黄門の印籠みたいに最後の最後で出てくる規定なんですね。でも昔に比べると、この規定で拒絶される事例が増えてきました。規定を適用するハードルが下がってきているように見えます。
ですので、B社の出願が4条1項7号違反で拒絶される可能性はある、と予想します。
(3)その他
その他、
● 他人の有名な商標と同じ又は似ている商標で、使う商品やサービスも同じ又は似ている商標(4条1項10号)
● 他人の商品・サービスと間違って認識するおそれがある商標(4条1項15号)
● 他人の有名な商標と同じ又は似ている商標で、不正の目的で使う商標(4条1項19号)
なんていう規定もあります。
ただ、10号や19号を適用するのは厳しいんじゃないかな、と予想しています。10号と19号は、何かの商品やサービスに使ったことで有名になった商標が対象です。「PPAP」は楽曲としては有名だけど、何かの商品・サービスの商標として有名になったわけではないですからね。
可能性があるとすると、商品・サービスとの関係を問わない15号です。
「PPAP」と言ったら、誰もがピコ太郎の「PPAP」をイメージしますよね。全く無関係のB社が商標「PPAP」を付けた商品を売ったら、「ピコ太郎やエイベックスと関係がある商品なのかな?」と誤解する人も出てきてしまいます。そういう商標を登録しないための規定が15号です。
過去には、宮崎駿さんと全く無関係の人が出願した商標「トトロ」について、「トトロ」が有名であることを知りながら、それが商標登録されていないのをいいことに先取り的に出願したものだ、という理由で15号を適用し、商標登録を無効にした事例があります。
「PPAP」が「トトロ」と同じレベルまで有名か、と言われると微妙ですけどね(笑)
B社の出願はこうなる!
以上の検討結果を踏まえると、
● B社の出願は方式審査をパスする可能性が少なからずある
● しかし、実体審査をパスする可能性は低い(商標登録されない可能性が高い)
と予想します。
その拒絶理由の予想は以下のとおりです。
◎(本命):B社が自分の業務に使う意思がない(3条1項柱書で拒絶)
○(対抗):B社の商標は公序良俗に反する(4条1項7号で拒絶)
▲(穴):ピコ太郎やエイベックスの商品・サービスと誤解されるおそれがある(4条1項15号で拒絶)
-(ノーマーク):出願料不納で出願却下、4条1項10号・19号違反で拒絶
まとめ
こんな予想をしてみました。規定の解釈には幅があります。これはあくまで私の予想ですよ(笑)
ですから、私の予想に反してB社の出願が実体審査をパスし、商標「PPAP」が登録されてしまう可能性もあります。もし、B社の商標「PPAP」が登録されてしまったら…。
次回が最終回です。ピコ太郎は「PPAP」を歌えるのか! まだ引っ張るんかい(笑)
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